ある1本のYouTube動画が、ぼくのミニ四駆ライフに衝撃を走らせました。マシンの挙動を劇的に安定させる「スライドダンパー」の、一歩踏み込んだセッティング術。動画でエキスパートが推奨していた“あるグリス”を求め、ぼくはすぐに行動を開始しました。しかし、物語はここから思わぬ方向へ。これは、1つの理想のグリスを追い求めた結果、セッティングの奥深さに触れ、最終的に「原点回帰」することになった、ぼくの探訪の記録です。
すべての始まり。1本の動画と“本命のグリス”
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★★星のマークでおなじみの【TAMIYA】
ミニ四駆のセッティングは、本当に奥が深いですよね。少しでも速く、そして安定させるために、僕たちは日夜パーツと向き合っています。そんな中で出会ったのが、スライドダンパー(通称:スラダン)の性能を極限まで引き出すという、ある動画でした。衝撃吸収の要であるこのパーツに、特殊なグリスを充填することで、マシンの跳ねを抑え、コースへの吸い付きを劇的に改善するというのです。
心惹かれた「スライドダンパー」減衰セッティング
スライドダンパーは、コースフェンスにマシンが激突した際の衝撃を、左右にスライドすることでいなしてくれる重要なパーツです。特にデジタルカーブやウェーブセクションなど、細かな振動や衝撃が続く場面でその真価を発揮します。ただ、スプリングだけだと、衝撃を受けた後にブルブルと震えてしまい、かえって挙動が不安定になることも。
そこで重要になるのが「減衰」という考え方です。スプリングの動きに意図的に「抵抗」を与えることで、衝撃を吸収した後の揺れをピタッと収束させる。この“粘り”のある動きが、マシンの安定性を格段に向上させてくれるのです。ぼくが見た動画は、この減衰をグリスの「粘度」でコントロールするという内容でした。もちろん、まだ“初心者”の枠を出ないぼくにとって、そんなセッティングの世界があること自体が、とてつもない驚きでした。
参考動画:きっかけとなったYouTubeチャンネルミニ四駆専門チャンネル「ちゃんとしたミニ四駆」※今回ぼくが参考にしたのはこちらのチャンネルです。
動画で推奨されていた「VGデフプレートグリス(42170)」とは?
その動画で「これぞ」と紹介されていたのが、タミヤのTRF(タミヤ・レーシング・ファクトリー)シリーズから出ている**「VGデフプレートグリス(ITEM 42170)」**でした。TRFは、主に1/10スケールの競技用ラジコンカー向けのハイエンドパーツブランド。その中の一つであるこのグリスは、本来「ボールデフ」というパーツに使われるものです。

ボールデフとは、ラジコンカーが曲がる時に内外輪の回転差を吸収するための差動装置(ディファレンシャルギア)の一種。このグリスは、そのデフの動きを意図的に硬く(ロック気味に)するための、非常に高い粘度を持つ特殊な製品です。ミニ四駆のパーツではない、ラジコン用の特殊グリスを流用するという発想に、ぼくはすっかり魅了されてしまいました。
最初の壁。「どこにも売ってない…?」という現実
タミヤならではのオンライン限定商品!!
「これだ!」と確信し、まずはいつも通りAmazonの検索窓に「TAMIYA VG グリス 42170」と打ち込みました。しかし、検索結果には何も表示されません。「在庫なし」どころか、製品自体が存在しないかのような静寂。ヨドバシオンラインでも結果は同じでした。
諦めきれず探し回った結果、タミヤの公式オンラインショップで販売されているのを発見!…したのですが、ここでまた問題が。製品価格990円に対し、送料が510円。合計で1,500円を超えてしまいます。グリス1つのためにこの出費は、正直なところ許せませんでした。ぼくの計画は、またしても暗礁に乗り上げてしまいました。
VGデフプレートグリス ITEM 42170 ← タミヤ公式オンラインショップ
“硬いグリス”を求めて。代替品探しの長い旅
本命が手に入りにくいなら、同じような性能を持つ代替品を探せばいい。そう考えたぼくは、42170が持つ「非常に硬い(高粘度)」という特性を頼りに、代替品探しの旅に出ることにしました。しかし、この旅は想像以上に奥深く、ミニ四駆の歴史そのものを紐解くような、壮大な探求となっていったのです。
そもそも42170は絶版?黒と白の容器の謎
代替品を探す前に、まずは42170の現状を正確に知る必要がありました。調べていくと、この製品には黒い容器の初期型と、白い容器の後期型が存在することがわかりました。ITEMナンバーは同じ「42170」。これは、製品の仕様変更ではなく、生産時期によるパッケージデザインの変更(ランニングチェンジ)のようです。
タミヤ公式サイトにページが現存することから「絶版」ではありません。しかし、大手量販店で扱われないのは、おそらく生産量が少なく、常に市場に潤沢に供給されている「定番商品」ではないからでしょう。エキスパート向けの、特殊なスポット生産品。それがこのグリスの正体のようです。
最有力候補。「アンチウエアグリス(OP-439)」との出会い
「スライドダンパー 硬い グリス」…。そんなキーワードで検索を続けていたぼくの目に、何度も飛び込んでくる名前がありました。それが、**「タミヤ アンチウエアグリス(OP-439)」**です。 ラジコンのギヤ部分などに使われる、摩耗を防ぐためのグリス。これもまた、ミニ四駆専用品ではありません。しかし、その特徴は「非常に高い粘度と粘着性」。まさにぼくが求めていた性能です。これは、もしかすると…。
証明。「歴史的な実績」は本当だった
「アンチウエアグリスが代替品として使えるらしい」。しかし、それは本当なのでしょうか。ぼくは、この説が単なる噂ではないか、確かな証拠を探しました。そして、様々なユーザーのブログや情報サイトを調べるうちに、驚くべき事実にたどり着きます。
この「アンチウエアグリスをスライドダンパーに使う」というテクニックは、最近生まれたものではなく、少なくとも10年以上前から存在する、ミニ四駆界の定番セッティングだったのです。
証拠(1): 2016年のブログ記事より 「通常グリスよりはるかに硬いためヌルヌルっとした動きを実現してくれる代物。スラダンの動きを調整して壁からの衝撃を緩和させるなど様々な使い方ができます。」
引用元:減衰を付けるときなどに使うハードグリスを簡単に塗るミニ四駆の小ネタ (dribarlabo.amebaownd.com)
証拠(2): 2021年のブログ記事より 「最終的にオススメなのはやはり減衰効果の大きいVGグリス。入手しやすいスラダングリス、フリクションダンパーグリス、性能でいえばアンチウェアグリスといった感じでしょうか。」
42170が登場する以前から、レーサーたちはマシンの性能を追求する中で、このアンチウエアグリスにたどり着き、スライドダンパーの減衰力を高めるための「武器」として使い続けてきたのです。ぼくが追い求めていたのは幻の最新テクニックではなく、歴史に裏付けられた、確かな定番チューンナップでした。
もう一つの選択肢。公式の専用品「HGスライドダンパーグリスセット」
調査の過程で、もう一つ魅力的な製品も見つけました。それが、**「HGスライドダンパーグリスセット(ITEM 15471)」**です。 こちらはミニ四駆専用パーツとして、まさにスライドダンパーの減衰調整のために開発された製品。「エクストラハード(赤)」と「エクストラソフト(青)」の2種類の硬さのグリスがセットになっています。
これはこれで、非常に魅力的です。アンチウエアグリスと、この専用グリスセット。一体どちらを選べば良いのでしょうか。それぞれの特徴をまとめてみました。
HGスライドダンパーグリスセット (15471) | アンチウエアグリス (53439) | |
位置づけ | 公式の専用品 | 実績のある定番の代替品 |
特徴 | ・「エクストラハード」と「エクストラソフト」の2種類入り ・硬さを使い分けてセッティングの幅を広げられる | ・非常に硬いグリスが1種類のみ ・「とにかく硬くしたい」という目的に特化 |
どちらも、ぼくが求める「硬いグリス」としての役割は十分に果たしてくれそうです。選択肢が見えてきたことで、ぼくの心は少しずつ晴れていきました。
最終結論。ぼくが選んだ「原点回帰」の一手
長い探求の旅も、いよいよ終わりを迎えます。幻のグリス「42170」から始まったこの旅は、歴史に裏付けられた定番「アンチウエアグリス」、そして専用に開発された「HGスライドダンパーグリスセット」という、3つの素晴らしい選択肢をぼくに示してくれました。最終的に、ぼくはどれを選ぶべきか。自分なりの答えを出す時が来ました。
決め手は「納得感」。だから、本命を選ぶ
決め手は何か。それは確かに「実績」や「汎用性」も重要でした。しかし、それ以上にぼくの心を動かしたのは、**「原点回帰」**という、ごくシンプルな想いでした。 そもそも、ぼくがこのグリスを探し始めたのはなぜか。それは、あのYouTube動画で見たセッティングに、心の底からワクワクしたからです。「エキスパートが選び抜いた、この一品を使ってみたい」。その初期衝動に、素直に従うべきではないか。
代替品の研究を重ねたからこそ、42170が持つ「硬さ」の意味がよく分かりました。そして、その価値を知ったからこそ、余計に「本物」が欲しくなってしまったのです。
ついに発見!ジョーシンで理想の出会い
そうと決まれば話は早い。もう一度、腰を据えて探した結果、ついに楽天市場に出店しているジョーシンwebショップで、適正な価格で販売されている42170を発見しました!これまでの苦労が報われた瞬間です。

楽天ではいくつかの店舗で売ってたよ。ぼくはジョーシンを選びました!

ぼくの選択、そしてこれから
そして、ぼくの最終的な選択です。 それは、**「VGデフプレートグリス(42170)」**でした。
長い回り道をしましたが、代替品の存在と性能をしっかりと把握した上での選択なので、後悔は一切ありません。むしろ、この探求の旅があったからこそ、確信を持って「これだ」と決めることができました。
もちろん、今回その素晴らしさを知った「アンチウエアグリス」や「HGスライドダンパーグリスセット」も、今後のセッティングの幅を広げるために、いずれ手に入れることになるでしょう。特にアンチウエアグリスは、その圧倒的な硬さで、また違った結果を見せてくれるかもしれません。
一つの「売ってない」から始まった、今回のグリス探しの旅。それは、ただ代替品を見つけるだけでなく、ミニ四駆という趣味の奥深さ、そして先人たちが築き上げてきたセッティングの歴史に触れる、貴重な機会となりました。さあ、届いたばかりの“本命”のグリスを手に、ぼくはこれから、愛車のスライドダンパーとじっくり向き合おうと思います。

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